「ニワトリは3歩歩くと忘れる」という言葉がある。
しかし、すぐに物忘れをするのはニワトリだけの特権ではない。人として生まれて51年。
「あなたの特技はなんですか?」と面接官に聞かれたら、「2歩歩くと忘れてしまうことです」と即答するだろう。
ニワトリなんかに負けてられない。僕にはホモ・サピエンスとしての矜持があるのだ。
物忘れ分野においても、ニワトリに負けるわけにはいかないのだ・・・・
そんな僕とアラブ王子・ムハンマドOによる、古座川リバーツーリング。いよいよ佳境だ。
のんびりゆったり、古座川紀行。
中編に引き続き、古座川リバーツーリングの模様を。
いきなり川を歩いているジジイの写真で恐縮だが、この日の古座川は水深がちょっと浅め。
ザラ瀬ではパックラフトの底を擦って、ライニングダウン(パックラフトを引き連れて、川をお散歩)する回数も、まあまあ多かった。
でもいつも言ってるが、清流だとライニングダウンも苦にならない。
というか、足元に流れる清流にニンマリしながらホクホク顔で歩いているのだ。
ザラ瀬に捕まっても慌てない、慌てない。
そのまま一休み、一休み。
という感じで、瀬の心地よい音を聞きながらパックラフトの上に寝そべり、眼前の絶景を楽しむのも、乙なものだ。
場所によっては、「川口探検隊?」と勘違いするような秘境感のある場所を漕いだり・・・
ちょっと変わった虫食い状態の岩を楽しんだり・・・
川面から浮き上がるという、アラビアンな魔法を披露するムハンマドOがいたり・・・
「あ〜最高」と2人の野太いダミ声ハーモニーが古座川の渓谷にこだましたのだ。
やがて気に入った河原を見つけ、昼の宴会へと突入したのだった。
アラブ王子の辛ラーメン(カルボナーラ風)
古座川リバーツーリングの計画が持ち上がった時、ムハンマドOは
絶対食べてもらいたいものがあるから、昼飯は俺に任せて!
と言っていた。
そして河原に上がるなり、いそいそと準備を始めたのがこれだ↓
大きめの石を五徳にして、固形燃料に着火。その上には、辛(シン)ラーメン。
なぜアラブの王子が辛ラーメンを?
と違和感を感じたが、いつになく真剣なムハンマドOの雰囲気は、他を寄せ付けない迫力に満ちていた。
彼が作っているのは、ただの辛ラーメンではない。
水をかなり少なめに入れ、そこにチーズを投入。水分を飛ばすと、もっちりした麺と辛味のバランスが絶妙な、カルボナーラ風の辛ラーメンが登場したのだ。
農作業の昼休憩にたまたま発見したというこの調理法。
本人はかなり熱く語っていたが、調理自体はいたってシンプル。誰でも思いつきそうなレシピなのでは・・・?と思ったが、そこはグッとこらえて、
「美味い!さすがムハンマド!」
とヨイショを忘れない51歳。
この歳になると、無駄な衝突を避けて世間を泳ぐという、卑怯な世渡り上手が身についているのだ。
というのは嘘で、
本当に美味しかった!のだ。
普通の辛ラーメンよりマイルドで優しい味になっていて、食べ応えもある。
こりゃあ、今後の川下り昼飯メニューに追加だな。
僕はといえば、「ムハンマドOの記念すべき初川下りだ。ここは焼肉でもてなそう」と気合いを入れて、焼肉開始!
「さあムハンマドよ!腹一杯焼肉を食べてくれ!」
と言った瞬間・・・
「あ、タレ買うの忘れた!」
・・・そうなのだ。
焼肉用の肉をカゴに入れた時は「タレも買わないと」と思っていたのだが、2歩歩いた時点ですっかり忘れてしまったのだ。
ニワトリは3歩歩くと忘れる。でも僕は2歩歩くと忘れる。
すぐに物忘れをするのはニワトリだけの特権ではない・・(以下、この記事の最初にループ)
結局、タレなしの焼肉を頬張るムハンマドO。
「オイシイ・・・」と片言の日本語で無理に褒めてくれるイケメンの横顔を、悲しそうな目で見つめる僕なのであった。
前に古座川を下った時、バーナーもライターも忘れ、焚き火もできず、冷たい水で「冷やしカップヌードル」を楽しんだ経歴を持つ僕。こんなことは日常茶飯事なのだが、ムハンマドOにとっては新鮮な経験だっただろう。
川で何かを忘れると、「ちょっと買ってくる」というわけにはいかず、致命傷となる。
だから川下りをする時は、川下り前の荷物の点検をしっかりすることが大切なのだ。
と、自戒を込めて書いておこう。
まあこの自戒も、2歩歩くと忘れるんだけど・・・
そんな感じでグダグダの「古座川カヌー・昼飯の部」を過ごす2人。
ビールも心地よく進み、アラブ王子との国際交流も深まったのだ。
そして川下り定番のお昼寝タイム。
川のせせらぎを聞きながら、心地よい風に吹かれてゴロッと昼寝。
ライフジャケットを枕に寝ると、スヤスヤと赤ん坊のように熟睡できるのだ。
そして川旅は続く
気持ちよく眠っているところをムハンマドOに叩き起こされ、リバーツーリング再開だ。
早く川を下りたいって気持ちは分かる。
でもこちとら51歳のジジイなのだ。適切な休憩が必要だということを、7歳下の若造は知る由もない。
安眠していた僕を叩き起こしたくせに、ムハンマドOはカヤックの上で昼寝。
まあね。カヤックやパックラフトの上でユラユラ揺られながら昼寝するってのは、本当に気持ちいいからね。
で、寝ぼけ眼を覚ますために、瀬に突入するムハンマドO。
古座川はキツイ瀬がほとんどないので、ここまで順風満帆に来たが、ムハンマドOにとっては初の瀬チャレンジになる。
側から見ると全然大したことない瀬なんだが、彼にとってはスペクタクルな大冒険なのだ。
瀬を超えた時に僕に向けたサムズアップが痛々しい。
でもこれ、僕も経験あるんだけど、あとで写真や映像を見ると大したことなく見えるんだよね。
でも瀬を漕いでいる時は隠れ岩を避けつつ、ものすごいスピード感と恐怖を感じながらの戦いをしているつもりになっているのだ。
明神橋で小川と合流。超清流が気持ちいいのだ。
楽しい古座川リバーツーリングも終盤に差し掛かってきた。
のんびり下りつつ、明神橋のところまでやってきた。
ここは支流の小川(こがわ)が流れ込んでくる地点だ。
小川は和歌山が誇る超清流リバーだが、その清流が流れ込んでくるために、本流の古座川の水もより澄んでくるのだ。
写真の角度や陽の当たり具合で、様々な表情を見せてくれる。そのどれもが、心を奪われるほどの透明度だ。
そんな清流に心を癒されながら、ついにゴール地点の目印である「少女峰」が見えてきた。
この少女峰は、昔々おふじという絶世の美少女がいて、海賊にストーカーされて逃げる途中、ついに追い詰められて岩山の上から身投げをしたという、可哀想な伝説が残っている。
その少女峰の前の月野瀬河原でゴール!
こうして令和初の記念リバーツーリングが幕を閉じたのだ。
ムハンマドOも、初の川旅に大満足の様子。川下り仲間ができた僕も大満足。
心地よい疲労感と充実感。
やっぱり川旅は最高なのだ。(日帰りだけど 笑)
最後に、ムハンマドOが撮影した古座川の水中動画をご覧いただこう。
古座川のキレイさを感じ取ってもらえるはずだ。
【エピローグ】川旅の後の大惨事。ニワトリが先か、僕が先か。
ここから先は古座川リバーツーリングとは何の関係もない話なので、暇な人だけ読んでくれたらいい。
(カンのいい人は、どんな話になるか想像ついているとは思うが)
・・・
月野瀬河原に到着した我々は、すぐ前にある駐車場へとカヤックを運び、事前に駐車してあった僕の車と、数時間ぶりの再会を果たしたのだった。
とりあえず車の近くにパックラフトとカヤックを置き、
「お疲れさん!」
とお互いに労いの言葉を掛け合った。
ここにはキレイなトイレがあるので、まずはトイレに行ってスッキリしてから車に荷物を載せて、出発地点の一枚岩まで行こうと思ったのだ。
やっぱり2人での川下りは、車を使えるから楽やな〜。
これがソロだと、今からヒーコラ自転車で戻らなければいけないもんな〜。
今回の計画は「完璧」やった。さすが俺やな〜。
と、口笛を吹きながら用を足そうとしたその瞬間・・・
「あ、車のキー忘れた!」
・・・そうなのだ。
出発地点の一枚岩で「車のキーは濡れないように」と防水パックを2重にしてバックパックに入れたのだが、2歩歩いた時点でそれをすっかり忘れてしまい、ムハンマドOの車に放置してきたのだ。
ニワトリは3歩歩くと忘れる。でも僕は2歩歩くと忘れる。
すぐに物忘れをするのはニワトリだけの特権ではない・・(以下、この記事の最初にループ)
ここで今まで書いてきたことを思い出してみよう。
何より「便利だな〜」「楽だな〜」と思ったのは、食材や飲み物などはすべてムハンマドOのカヤックに乗せてもらったことだ。
バックパックは、ムハンマドOの車にそのまま置いて来た。
ソロツーリングでは考えられない楽な軽装備で川下りができるのだ。
これ!これが原因!!
いつもはバックパックに全てを入れて、パックラフトにくくりつけて川下りするから、忘れるということはまずあり得ない。(と言いつつ、前はバーナーとライターを忘れたけど)
出発前に、ムハンマドOは僕にこう言った。
「荷物は全部、俺のカヤックに載せるから大丈夫!」
と。
それで僕は、「ありがとう!じゃあバックパックも車に置いていくわ!」と、車のキーが入ったバックパックを、ムハンマドOの車に置いてきたのだ。
真っ青な顔で用を足しながら必死に善後策を考える51歳のニワトリジジイ。
「いっそ、黙ってようかな」
「いやいや、黙っててもバレるに決まってるやん」
と、わけのわからない自問自答を繰り返し、パニックになる51歳のホモ・サピエンス。
結局、出した結論は「正直に言って謝ろう」だった。(当たり前や!)
そして、緊急の問題が発生したことを演出するために、トイレから全速力でムハンマドOのところへ走った。
いぶかしがるムハンマドOに対して、蚊の鳴くような声で
「あのね、あのね、実はね、車のキーを置いてきちゃった」
とうつむきながら告白する51歳のジジイ。
しかしこの時のムハンマドOの反応が小憎らしかった。
「え、またやらかしてしまったの?(笑)」
だったのだ。
標準語に訳すると「あなた、またしくじってしまったようですね」となる。
実はこの51歳のジジイ。過去に数多のしくじりを繰り返し、ニワトリ以上の忘れっぽさを発揮してきた歴史がある。
ムハンマドOも、その僕のしくじりの歴史をよく知っていたのだ。
直近でも、焼肉のタレを忘れてるしね。
結局奴は、怒るどころか
「次の飲み会の時のネタができた〜!」
と喜んでいるではないか!
7つも下の若造のくせに、人生の先輩に対するリスペクトに欠けているのだ。
まあこの状態でリスペクトしろってのも、無理な話だが。
結局、次の飲み会では古座川リバーツーリングの素晴らしさが議題に上がることはなく、僕のしくじりがクローズアップされることになったのだ。
さてその後どうしたかというと、古座川タクシーに電話して月野瀬河原まで来てもらい、ムハンマドOを乗せて一枚岩まで行ってもらったのだ。
タクシーの運転手さんにもこの話をしたらしく、車内は大爆笑に包まれたそうな。
よかったね、楽しくて。
結局、タクシー代を余分に払っただけに終わったのだ。
こんなことなら、最初から1台でワイワイと来ればよかったのだ。
車2台で来た意味がまったく無いじゃねーか。ガソリン代と高速代もかかってるし。
「完璧」と自画自賛していた川下り計画は何だったんだ!?
こうして令和初の古座川リバーツーリングは幕を閉じた。
ニワトリが先か、僕が先か。
忘れっぽさのチキンレースはまだこの先も続くだろう。
しかし僕も51歳。
もうすぐ「ボケ」という症状も乗っかってくる。
ニワトリ以上の忘れっぽさに「ボケ」が乗っかった場合、一体どうなってしまうのか、いささか不安に感じた今回の川旅であったのだ。
・・・・
長い長い記事にお付き合いいただき、ありがとうございました。
これにてカヌー同好会による古座川リバーツーリング紀行・3部作は終了です。
興味のある人はまた最初から読んでくれると嬉しいです。
コメント
いや〜面白かったです 笑
いつか自分もカヌー同好会に入れていただきたいです!
ぜひ!同好会に入ってください。
ニワトリ初老男と、アラブ王子の2人で歓迎しますよ。
パックラフト買ったら、教えて下さいね!